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Selfishly

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S,P 18 エピローグ『連理の路』(完結)


スローライフ S

   ~ エピローグ ~ 『連理の路』




H19,6/11 01:45


何度も何度も口付けをする。
髪にも、瞼にも、頬にも、肩にも。
当然、唇にも。
ここに相手が居る事を感じる為に。

そして、口付けの合間に何回も名前を呼ぶのを繰り返す。
相手が呼び返してくれるのを、信じれるように。

肌寒く感じられる時刻になっていたのも気づかずに、
互いに抱きしめあったまま、木の下から動けずにいた。

今離せば、またエドワードが戻っていくのではないかと言う恐れが、
密着している身体を離せないようにしている。
触れていなければ、実感できないのだ。
長い期間、不在を耐え忍んできたせいで。

それでも、小さなくしゃみをエドワードがすると、
ロイは大慌てで家へと、抱きかかえるようにして戻っていく。

家に入っても、何をする気力も、もう二人には残っていなかった。
互いに堅く抱きしめあったまま、ベットに倒れこむと、
相手が眠りに就くまで、口付けを交わし、頬を摺り寄せ、
身体を沿わせて、相手の存在を確認し続ける。

長い間使われていなかったエドワードの声帯は、すぐには使えないのか、
掠れた吐息の音しか響いてこない。
けれど、ロイにはそれで十分だった。
彼の耳には、エドワードが自分を呼んでいる声が聞こえていたから。

衰弱をしていたエドワードの身体では、急激な変化に耐え切れないのか、
襲ってくる疲労感と睡魔に抵抗も出来ないまま、うつろう様な様子を見せる。
そんなエドワードに、ロイは髪を撫でてやりながら、ゆっくりと休むようにと
囁いてやる。
それに、小さく頷いて返事を返す仕草をすると、エドワードはそのまま睡魔に攫われていく。

「エドワード、もう眠ってしまったのかい?」

すうすうと吐息を付いているエドワードの様子に、一抹の不安を消せずに
ロイは、髪や頬を撫でる手を止める事が出来ない。
ずっと長い間、眠るエドワードを見守り続けてきた。
次の日に、目を覚ましてくれるだろうかという不安を抱えながら。
今日はもう、眠ることは出来ないだろう。
次にエドワードが目覚めて、戻ってくれたままなのを確認せずには。


ゆっくりと休ませてやりたいと思う気持ちと、
直ぐにでも目を覚まして欲しいと言う、相反する気持ちを持て余しながらも、
ロイは寄り添う温もりを守るように、抱きしめる。




翌日、目覚めると目の前に嬉しそうに微笑んでいる男の、やつれた顔が目に飛び込んできた。

また、この馬鹿な男は、自分の身体を省みずに、
夜通し寝顔を見ていたのだろう。

「ば・・・か」

掠れた声で、そんな憎まれ口を伝えるにも関わらず、
より一掃嬉しそうにして、エドワードへ口付けを落としてくる。

「おはよう、それに、お帰り」

そう言って、抱きしめてくる男の背をあやすように叩いてやると、
エドワードは、ロイの頭を抱え込むようにして、抱きしめてやる。

「ねろ・・よ。 おれも、もうすこし、やすんで・・るから」

それに、嫌々をするように首を振る男の頭を押さえ込んで、
エドワードが強引に添い寝をする形になる。
足掻くようにしばらくモゾモゾと抵抗していた男も、
エドワードが宥めるように髪を撫でていくうちに、
動きが段々と緩慢になり、しばらくすると、エドワードに急激な重みがかかってくる。

どうやら、眠ったようだ。
エドワードはホッとしながら、少しだけ身体をずらすと、
愛しい男の髪を撫で続けてやる。
そして、闇の中にさえ届いてきたこの男の決意の深さと、
思いの強さを思い出す。

闇の中で侵食され同化されていたエドワードの、最後の意識が消えそうになっていた時、
その光と、思いが雷鳴のように鳴り響き、落雷のように轟かせながら、闇の中を
真っ直ぐと、エドワードの下へと落ちてきた。
それは失い始めていたエドワードの意識を、取り戻させるのに十分な強さと
輝きを放っていた。
エドワードの周囲に纏わりついていた闇も、脅えたように気配をざわめつかせ、
慄かせる。

エドワードは、ゆっくりと意識をそれに向ける。
闇を切り裂いて光の路を作っているのは、あの男の放つ彩だ。
それを思い出した途端、流れ込んでくる思念に驚愕する。
それは、この1年間もの長い間、ロイが抱えてきた膨大な想いの奔流だ。
後悔や苦悩、哀しみに苦しみ、不安や恐怖に塗れた暗い想いと、
それを遥かに凌駕するエドワードへの愛情・・・真摯な想い。

この闇の中で流してきた涙とは、全く別の思いでの涙が溢れてくる。
激しい感情の波が去ると、今度は静かな声が落ちてきた・・・。

『独りで行くんじゃない。 今度は私も一緒だ』

深い決意を籠めた言葉が、何もない空間に落ちてくる。
エドワードは、涙で掠れる視界にさえ、鮮やかに映る光の路へと
浮かび上がっていく。
残念そうに蠢く闇たちも、光に脅えたように奥底で打ち震えているだけだ。

エドワードは、光の道しるべを昇りながら、
この1年間のロイの姿を見つめ続ける。
そして、愚かな男を叱り飛ばす為に、現世に戻っていく。



エドワードは、疲れ果てたように眠り続けるロイを
あやし続けてやる。
少しでも安心させてやりたくて。



思ったより早く目覚めたロイに、エドワードは渋い顔をして向かえる。
エドワードの不機嫌な様子に怪訝そうにはするが、それさえも嬉しいのか、
皺を寄せた鼻の頭に、キスをする。

その頭に、ゴツンと拳を落とされると、さすがにロイも、
エドワードの不機嫌が、作られたものではない事を察して、
一体何事かとお伺いをたててみる。

「あんた、本当に馬鹿だ! 何が、一緒に行くだ!
 置いていかれる人間の事を考えて見なかったのかよ!」

「どうして、それを?」

意識が戻っていなかった時に話した言葉なのに、
どうして、知っているのだろう? 首を傾げるロイの様子にも気づかずに、
エドワードの怒りの言葉は、次々と投げつけられてくる。

「しかも、何でこんなド田舎に越してくるんだよ!
 アンタに何かあったらどうするんだよ!」

ずらずらと上げられていく言葉は、この1年間のロイの行動に間違いなく、
ロイは、唖然とした様子で、エドワードに問いかける。

「エドワード・・・、君が何故それを知ってるんだい?」

驚く相手の様子に、エドワードは光の路の話をする。

「闇の中、あんたの想いが振ってきたんだ。
 それと、最後のセリフが・・・。

 居ても経ってもいられなくなって、とにかく馬鹿な事は
 止めさせなくちゃと思うと、自然と意識が光の路に吸い寄せられるように
 上がっていくうちに、その光があんたの姿を映してるのに気づいたんだ。

 多分・・・俺の脳の記憶なんだと思うけど。

 どのあんたも、馬鹿な程必死でさ・・・そんで、優しかった」

何の反応も返さないエドワードに、ロイは常にエドワードの心がそこにあるように、
変わらぬ愛情で接してくれていた。
エドワードは登りながら、ロイの愛情に満たされていくのを
体中で、意識中の全てで感じていった。

意識が戻ったとき、この目の前の愚かで愛しい男を
どうしようもないほど愛している事に気づかされて、
涙を抑える事が出来なくなっていた。

今も、涙腺が壊れてしまったのか、
浮かんでくる涙を抑えるのが難しい。

この男の為を考えれば、自分が在なくなる方が良いのだと思っていた。
でもまさか、自分と同じ所まで降りてこようとするなど、
エドワードには考え付かなかったのだ。
自分は甘く考えすぎていたのだ。 この男の愛情の深さも、
決意の深さも。
そして自分達が、もう、切り離せない連理の路を歩んでいた事を。
どちらかを裂けば、片方も滅ぶ。
連理の枝とは、互いがいてこそ生きていけるのだから。
愚かなところまでお揃いとは、苦笑するしかないが、
もうこうなれば、とことん付き合って進むしかないだろう。

「ロイ。 愛してる」

昔は、照れが邪魔して素直に言えなかった言葉が、
すんなりと口をついて出てくる。
驚いたように、目を瞠る男も、涙腺が弱くなっているのか、
水滴を零しながら、エドワードに告げてくる。

「私もだ。 エドワード、君だけを愛し続けてる」

自分よりグレードが高い告白に、やっぱりこいつには負けると思いながら、
嬉しそうな笑みを返す。



漸く周囲に気を配る余裕が出てきた頃に、
エドワードは大慌てで、アルフォンスに連絡をする事を思い出す。
体調が完全とは言い難いエドワードを動かせるのを良しとしないロイが、
なかなかベットから出ることを認めないので、
電話線を自分で作って、ロイに繋げてもらう。

「アル? お~い、アルフォンス、聞こえてるかー?」

練成にミスなどなかったはずだがと首を傾げるエドワードに、
ロイはアルフォンスの驚きを想像して、苦笑を浮かべる。

『に、に、に・・・』

「にににって何だよ? 何か、変なものでも飼ってんのか?」

エドワードの苦笑を含ませた返事に、

『兄さん!! 何だよ、その言い草は!
 僕らがどれだけ・・・!!』

声を詰まらせているアルフォンスの様子に、
さすがにエドワードも、からかうのは不味かったかと、
素直に謝りの言葉を伝える。

「ごめんな・・・心配かけて」

優しい弟の心痛を思うと、エドワードの言葉にも痛みが籠もる。

『うっ・・・』

泣きじゃくる嗚咽が響いてくる。
エドワードは、謝る事意外思いつかずに、おろおろと
謝罪を続ける。

漸く気持ちが落ち着いたのか、グスグスと鼻を鳴らしながらも
答えを返してきてくれる。

『・・・いいんだ、僕は兄さんさえ戻ってきてくれたんなら、
 もう、何も気にしないから』

そんな優しい弟の言葉に、ホロリと涙が出そうになるが、
次に飛び込んできた罵声に、ピタリと涙が止まる。

『くぉらー!! エドー!
 あんた、一体どれだけのらくらと寝てれば気が済むわけ!

 どんだけ、あたし達が心配してやったと思うのよ!
 今度逢ったときは覚えておきなさいよ、高くつくからね』

威勢の良い啖呵も、涙声では迫力にイマイチかける。
エドワードも、心からの礼を告げる。
彼女が居てくれたからこそ、アルフォンスも耐え続けてこれたのだろう。

『兄さん、僕ら明日にでもそっちに行くよ』

一目でも兄の姿を見たいと思うアルフォンスの気持ちの現われだろう。

「えっでも、俺らも、もう戻るぜ。
 ロイも、早く軍に戻してやらなくちゃいけないからな」

それでなくとも、相当の時間を不在にして、遠回りさせてしまっているのだ、
ここにグズグズといるわけには行かない。

返答に困るエドワードに、手振りで受話器を渡すように伝えると、
ロイは代わって電話で話し始める。

「アルフォンス君、良かったな。

 大丈夫だ、返る前にそちらへも挨拶に向かう事にするから、
 しばらくだけ待っててやってくれ」

その言葉に、更にロイへの感謝の念を深くしてお礼を伝えているのだろう。
弟にしては珍しく、弾んでる声が届いてくる。

何やらロイの株が上がっているようだが、それはそれで良かったと思うべきだろう。
代わりに、自分の兄としての信用は失墜していようとも。

最後に、くれぐれもロイの言う事を良く利くようにと念を押されて、
受話器をおく。

複雑な表情をしているエドワードに、ロイはクスクスと笑いながら
用意してやった食事を並べてやる。
ゆっくりと食べるように言われ、エドワードもその言葉に従うように
焦らずに食事を始める。
自分でも、体力が根こそぎなくなっている今の自分の身体のことは
解っている。
食事も、思うより身体が受け付けないだろう。

だが、こうしいる間も、軍ではロイの不在は続いているのだ。
自分ひとりの為に、ここでの時間を引き延ばすわけにはいかない。
そんな焦りが表情に出ていたのか、ロイが呆れたように
エドワードを見つめてくる。

「なんだよ」

「エドワード・・・今は余計な事を考えるのは止めなさい。

 君を一人置いて、私が帰れるはずはないだろう?
 戻るときは二人でだ。
 彼らにも、そう伝えてあるんだからね」

「でも・・・あんたの夢が更に時間がかかることに・・・」

「君を置いて帰っても、無理をさせても、同じ事になる。
 なら、元気になって二人で帰る方が、いいだろう?」

エドワード程の衰弱はしていないと言っても、
ロイにも相当のダメージがかかっている。
今の段階で戻ったとしても、
確かに、この状態の二人では、再入院するのが関の山だろう。
ここはロイの言うとおり、腹をくくって体力の回復を待つ方が良いだろう。

それからは、何をするでもなく日がな1日、二人でゆっくりと過ごしていく。
朝目を覚ますと、どちらともなく、おはようのキスをし、
天気が良ければ二人で手を繋いでゆっくりと周辺を散策する。
料理も二人で作るのは久しぶりだ。
入浴位は別にして欲しかったのだが、片時も傍を離れたがらないロイの
説得に根負けして、仲良く一緒に入る。
最初は、恥ずかしさが勝っていたのだが、平静なロイの様子を見ていると
恥ずかしがっている自分が馬鹿馬鹿しくなって、開き直る。
開き直りさえすれば、甲斐甲斐しいロイの行動は、エドワードにとって、
なかなか助かる事が多いのに気づく。

「お客様、痒いところはございませんか?」

ロイの澄ました物言いに、エドワードはプッと噴出して
笑いながら返事を返してやる。

「ないない、すっごく気持ちいいー」

湯船に浸かりながら頭を洗ってもらうのは、今のエドワードにとっては
毎日の楽しみの1つだ。
ロイの丁寧な手入れのせいか、エドワードの髪は以前より艶が増している。

すやすやと寄り添って眠りに就いていると、ふとした時にロイが目を覚ます。
そして、エドワードが傍にいる事を確認するかのように、
抱きしめている手を強くする。
そうして、やっと安心したようにまた眠りに就く。
そんな癖がついてしまったロイの行動に、エドワードの胸には鋭い痛みが走るが、
知られる事を由としないだろうロイの気持ちを慮って、
エドワードは、眠り続けているふりをする。

そんな温かい空気の中で、時たま痛む胸を互いに抱えながら
日々が過ぎ去っていく。


「よっ・・と」

少しずつ体を動かす事を始めたエドワードは、
まずは、落ちた筋肉を取り戻す事にする。
身体的には、さすがに若いだけあって、半月もすればほぼ回復に近づいてきたが、
落ちてしまった筋力だけは、時間をかけて取り戻すしかないだろう。
少し動くだけで、息が上がる自分の身体をもどかしく思いながらも、
地道な運動を続けていく。

「エドワード、そろそろ家に戻ってきなさい」

専属の看護士のように、エドワードの健康面に気を配っているロイは、
頃合の頃に、エドワードに声をかける。

「えーっ、もうちょっとだけ」

不満そうな声を上げるエドワードを誘うように、手に持ったおやつを
見せびらかす。

「今から1分で戻って、手を洗わないと、
 今日のおやつは抜きにする」

笑いを含んだ忠告に、頃合かと立ち上がり、
ロイの待つ方へと歩き出す。

リビングで、食後のお茶をしながら寛いでいると、
最近頻繁になるようになった電話が音を立て始める。

大抵は、ロイへの電話だ。
エドワードが、戻った事を伝えると、それまでは遠慮して控えていた電話の回数が
増えてきた。
最近では、込入った軍の任務の話も出てくるようになり、
ロイが書斎に切り替えて電話を取る事も増えてきた。

今も、リビングから姿を消したロイの出て行った扉を眺めながら、
エドワードが、真剣な表情で考え込む。
簡単な指示で済んだのか、直ぐに戻ってきたロイは
エドワードの難しげな表情を見て気づいているだろうに、
素知らぬ風に、お茶の続きを始める。

エドワードは、決心をつけたように口を開く。

「なぁ、ロイ。 そろそろ戻る時期だぜ。

 俺の体調も、ほぼ完全に戻ってきたし、
 あんたも、同様だ。

 これ以上、ここに居る必要はないと思う」

引き伸ばしてきたのが、自分が原因なのもわかっているで、
エドワードの声に、済まなさそうな響きが含まれるのは仕方がないだろう。

「そうだな・・・、もう少し様子をみたら、そろそろ考えないといけないな」

そんな、乗り気でない返事を返してくる相手に、
エドワードが詰め寄るように、話を進める。

「いや、もう待つ必要はないって。
 俺も、もう十分移動できる位の体力は持ててるし、
 何なら、アルの奴に顔を見せに行くのは、一人でも大丈夫だから・・・」

先に戻ってろよの言葉は、ロイの激昂に続けられなくなる。

「何を言ってるんだ!!
 一人で出かけるなんて、もしもの事があったらどうするんだ!」

ロイは言い終わると、エドワードを強引に引き寄せて抱きしめる。

「頼むエドワード。 そんな哀しい事は言わないでくれ」

しがみ付くように回された腕の力の強さに、ロイが抜け出れない
不安を抱えている事に気づく。

この1年以上の間。
確かにロイにとっては、地獄のような日々だっただろう。
人形のように意思のないエドワードを看護しながら、
日に日に、愛する人間の命が儚くなっていくのを
自分の身を削りながら見続けるしかないという、辛い日々を過ごしたのだ・・・
たった独りで耐え忍んで。

けれど、とエドワードは思う。
それなら尚更、荒療治であっても、抜け出そうとしなければ、
これからの未来へと続く路に翳を差す。

例え、最初は恐々であっても、互いの手を離して行く事を覚えなくてはいけない。
共に路を進むと言う事は、常に寄り添っているという事ではない。
自分が知りえない事を、時間を、共有して交換できる相手が在ると言う事なのだ。
このぬるま湯の世界に二人で浸かっていると、
どちらも、心が弱ってしまう。

エドワードは、抱きしめる腕を振り解いて立ち上がる。
そして、驚くロイを置いて、スタスタと自分達の部屋へと歩いていく。

「エドワード?」

ロイの驚く声にも振り向かずに、部屋を出て行く。
自分達の部屋に入ると、目当ての物を探し当てると
さっさと、その中に荷物を詰め込み始める。

「君は・・・一体何を始める気なんだ?」

気づいている癖に、そんな言葉が思わず口をついて出てしまう。

「荷造り。 あんたも、さっさと自分の分を詰めろよ。
 明日の朝には、リゼンブールに行く列車に乗るぜ」

黙々と荷造りをするエドワードの背中には、制止の声は聞かないという
気迫が籠もっている。
ロイは、ため息を吐きながら、ベットの端に座り込む。

その気配に、エドワードは噤んでいた口を開いて語りだす。

「俺が閉じこもっていた時に、あんたは俺を強引に呼び返した。

 なら、今度は、俺が立ち止まるあんたの尻を蹴ってやるよ」

そう言うと、クルリとロイの方に向き直り、
力強い笑みを見せる。

ロイはその笑みに、降参の旗を上げる。
彼は戻ってくる間に、ロイにはわからない強い決意を秘めて
戻ってきたのだろう。
今度は、2度とあそこには戻らないつもりで。

ロイは、そのまま後ろに倒れると、思わず子供じみた自分が
可笑しくて笑いを声を上げる。
掌で目を覆い、自分の弱さかげんを嘲笑しかない。

そんなロイに圧し掛かるようにエドワードが、身を乗り上げてくる。

「いいんだよ、あんたはそのままで。
 あんたの弱さも、強さも、俺のものだ。

 そして、俺のも、あんたのものだ」

そう告げると、目を隠しているロイの手を強引にどけて、
驚くロイに微笑みながら、口付けを落とす。
優しく労わるような口付けが、どんどんと熱が籠もるものに変わって行く。
確認するだけの為に触れていた手が、身体が、今は明確な意図を持って
触れ合っていく。
互いの衣服が取り去られる頃になると、主導権はロイに移っていた。
エドワードの意思がないときには、どれだけ傍に居ても
欲情を感じる事がなかったと言うのに、戻ったとわかったその時から、
本当は抱きたくて、確認したくて、毎晩欲望と、相手を思う理性とが
ギリギリの線でせめぎあっていたのに、エドワードからの誘い水が送られると、
あっさりと理性は消え去って、跡形もなくなった。

触れたくて触れられなかった肌を、余す事無く丹念に愛撫する。
以前より華奢な身体になったのが気にはなったが、
それも、快感に反応するエドワードの声にかき消されていく。

その夜は、なかなかエドワードを手放せないまま過ぎていく。
そろそろ外が白けてくる頃になってようやく、二人とも意識を手放すようにして
眠りについた。
数時間後、ベットから起き上がれない状態になったエドワードに
頬を殴られるが、それさえも満足しきったロイにとっては、
痛くも痒くもなかったらしい。

朝一の列車には乗れずに、午後の最終便に乗る事を伝えるエドワードにも、
身体を心配する様子を見せるが、今度はしっかりと頷き返す。


「忘れ物はないね」
 
それに、黙って頷き返す。
それを確認してから、扉に鍵をかける。
しばらく二人は無言で、その家を眺める。
それぞれの想いが詰まったこの家には、二人が戻ってくる事は2度とないだろう。
自分達が戻るべき場所は、ここではないのだから。

「行こうか?」

そう声をかけて、二人で路を歩いていく。

思ったより遠いところへ、そして長い時間回り道をしてしまったが、
これも、二人で歩く道を結ぶためには、必要な路だったのだ。
今は、二人してその事に気づいている。
歩く道で手を繋いでいなくても、相手の姿が見えないとしても、
必ずまた、二人の路は重なるのだ。

互いに共に路を歩んでいくという事は、自分自身がきちんと、
自分の足で意思で路を進んでこそ、初めて可能になる事なのだ。

ゆっくりと歩く道すがら、これからの話を沢山交わす。
1年のプランクは、容易な事では埋まらないのは覚悟のうえだ。

「また、書類に埋もれる日々か・・・」

げっそりと呟かれたセリフに、エドワードは笑いながら、
更に落ち込む事を言ってやる。

「それどころか、あんたの席があるかが問題じゃない?

 案外と、ホークアイ中佐あたりが座ってて
 その方が上手くいってるかもよ」

笑えない想像に、ロイの頬が引き攣る。

「それを言うなら、君だって大学に席がなくなってるんじゃないか?」

嫌味を返したつもりが、あっさりとかわされる。

「ああ、別にいいよ。
 俺、他に入りたいところ決まったから」

エドワードの発言に、初耳だったロイが驚きを示して問い返す。

「医学生を止めるのかい? せっかく優秀な成績で入ったと言うのに。

 確かに君なら、どこの大学でも簡単に入れるだろうが、
 目指していた道じゃなかったのかい?」

心配そうに聞き返してくるロイに、エドワードはきっぱりと返事をする。

「いや別に医者になるのはあきらめる気はないぜ。

 でも今は、それよりも先にやりたい事が見つかったんだ」

そう朗らかに、高らかに告げるエドワードの表情に、
ロイは、眩しそうに目を眇める。
陶然と相手を見つめていたロイが気づいた時には、
さっさと先を進んでいくエドワードの後ろを
慌てて後を追いかける事になった。

「一体、君がそこまで言い切る事とは何なんだい?」

抑えられない好奇心で聞いてくるロイに、エドワードは含み笑いをすると、

「内緒」と連れない返事を返す。

「内緒!! どうしてだい? 聞かせてくれる位いいだろう!」

食い下がるロイに、エドワードはあっさりと「後でな」と返すと
歩みを速めて、進んでいく。

リゼンブールを経て、セントラルに戻る道すがら、
ロイの1番の関心ごとは、エドワードが話してくれない内緒の事だった。
どれだけ強請っても、頑として口を割らなかったエドワードに、
最後には、煩いと怒鳴られる。

そして、その話の結果を聞くのではなくて、見る事になりショックをうけるのも、
もう少しだけ後からの事になる。

復帰後、一階級降格の甘い処分で済んだロイは、
今はエドワードと共に、懐かしい東方地にいる。
二人の始まりとなった場所へ、こうして再出発もこの土地に戻ってくるのは、
縁という見えないものを感じてしまう。

そして、グラマン老将軍は、ロイの不在時を守り通した功績で
大統領へとコマを進めた。
そして、数年後、無事にロイに引き渡すまで、
その地位を守り通してくれる事になるのは、
また別の話だった。


その後も、二人の路は何度も離れ、重なっては絆を深くしていく事になる。
連理の言葉は、根を同じくする者を示すのにも例えられる。
互いに、どれだけ違う世界に伸びようとも、枝を広げようとも、
それは互いの絆を深くするために必要な事なのだ。

今連理の路を歩き出した二人の前には、
それぞれの路が広がっている。
ゆっくりと根を生やした木は、どの木よりも高く、大きく枝を広げる事が出来る。
二人が互いを信じあっている限り、果てしない路の先には、
必ず相手が待っていてくれる。
それを確信し、歩んで行く足取りは、強くてしっかりと進んでいく。

未来に待つ、相手を抱きしめる為に・・・。




[あとがき]

書き終わった・・・。
この前の話では、気づけばエドが全く話してない!
説明文ばかりになって、読みづらかったのではないでしょうか・・・。

エピローグでは、亭主を尻に引く妻みたいになってるエドワードの様子に
失笑が。 うちのロイは、どうしてこうかっこよく決めれないんでしょうかね。
書いているうちにいつも情けなくなるのも、
ここまでくれば、これも歪んだ愛情の1つよね。
と開き直るしかありません。

本当に、1年間半にも渡る長いシリーズをご愛読頂きまして、
心から感謝の気持ちを!!
本当に、ほーんーとーに!! ありがとうございました。
また、番外編で其の後のお話を書くかも知れません。
(すでに2作ほど、出してしまっておりますが。笑)

でも、取りあえずは、他のSTOPしている連載を書き終えてから
考えようかなっと・・・。

他の作品も、このシリーズ同様に可愛がって頂ける事を祈っております。
ありがとうございました。 m(__)m 





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